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月刊誌「改革者」2010年7月号
「改革者」2010年7月号 目次
 

羅 針 盤(7月号)
              政変を抑止力への理解につなげよ

                          加藤 秀治郎
              東洋大学教授・政策研究フォーラム副理事長


  普天間問題の混乱から首相交代へとドラマが続いた。 発端は鳩山前首相が自ら認めた「抑止力についての浅い認識」だ。 その抑止力とは、挑発的行動をとりかねない勢力に対し、やれば報復することを事前に知らせ、思い止まらせること、その態勢や力のことだ。 講義ではカンニングを例に引いて説明する。やれば痛い罰則をくらうから、得にはならないと知らせ、事前に思い止まらせるのが抑止だ。 それには、報復をする能力と意図を備えているのが条件だ。沖縄の基地は、わが国とその周辺で平和を乱す行動に対し、重要な抑止力なのだ。 辞任を促す発言で、渡部恒三・元副議長は「そんなことは中学生でも分かっている」と語ったが、そんなことはない。 難しくはないが、教わらなければ理解できず、意識的な努力が必要だ。そして実は、中学どころか、高校でも教えていない。 高校の「政治・経済」教科書を三社分調べたが、出ていない。大学生向けの政治学や国際関係の事典でも、説明があるのは半分ほどだ。 高校では教えるべきだと思うし、その方向への行政的な指導を望むが、教科書に書けばそれで済む問題でないのが難しいところだ。 最近も横浜市が、四月から使われている「新しい歴史教科書」(自由社版)で揺れている。浜教組が代わりの独自教材を用意しているというのだ。 これでは、抑止を教えよというだけではダメだろう。 新聞・テレビも抑止について国民が理解を深めるよう、解説をしてもらいたい。だが、実はここでも問題は憲法九条に回帰してくる。 軍事力には抑止の役割もあるのだが、それを認めるのか。 また、「能力と意図」と書いたように、いざという場合、使う可能性を放棄できないが、それは大丈夫か。 冷徹に認識を深めれば、選択の幅は狭くなり、安全保障では超党派的合意ができてくるのが自然だ。 外交・安保での超党派性を早く確立して、正常な二大政党型政治につなげたいものだ。 それができれば、今回の政変にも意義があったこととなろう。
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