出 版 物
月刊誌「改革者」2012年6月号
「改革者」2012年6月号 目次
 

羅 針 盤(6月号)
                民主主義の危機を露呈する選挙年

                             谷藤 悦史
                 早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長


  二〇一二年は、選挙年である。ロシア、フランスと大統領選挙が行われ、やがてアメリカとなる。 選挙を前にして、大きな失点をしないために、政治的試みは慎重になってしまう。 新しい試みは抑制され、守りの政治が主流となる。こうして世界の政治は、日本を含め停滞する。 ロシアの政治も、フランスの政治も、今年の後半から進むことになろうが、アメリカの政治は、来年になって本格化するであろう。 ロシアとフランスの大統領選挙を見て、民主主義の危機をあらためて思う。 ロシアのプーチンは、六三%の票を獲得して再び大統領の地位についた。民主主義の根幹である選挙で、不正が行われたという噂が絶えない。 大統領と首相職を含めて、プーチン支配は、一二年間に及び、それに新たに六年が加わる。 かつてわが国でも言われたように、政権交代がなく、しかも一人の政治家が一八年間にわたって権力を掌握することは、成熟した民主主義国のあり方なのか。 固定した政治権力に利権が絡み、政治腐敗が拡大する。 一見すると自由が拡大しているように見えるが、メディアの巧みな管理で、ソフトで静かな言論の抑圧が広がる。 新興民主主義国の政治的成熟の限界が露呈している選挙であった。 他方で、フランス大統領選挙。広く指摘されている「民主主義の赤字」を典型的に示すような内容であった。 四月の選挙では、いずれの候補者も三〇%を超える票を獲得できなかった。 第一位となった社会党F・オランド候補は二八・六%、現職大統領のN・サルコジは二七・一%で第二位となった。 その他の候補者は、一〇%台やそれ以下であった。オランド候補とサルコジ候補が、選挙法の規定に従って、第二回の選挙に向かう。 決選投票の内実は、貧困である。国民は、全選挙民の三割にも満たない支持しか得られない候補者の間で、選択を迫られているからである。 最終結果は、八一・一四%の投票率でオランドが五一・六七%、選挙民全体の四割程度の支持で当選した。 フランスばかりでなく、古い民主主義諸国に広くみられる現象である。 アメリカ、イギリス、そしてわが国においても、選挙民の過半数を超える支持を得るような政権が誕生しない。 選挙制度が作り出す「歪み」によって、過半数が作り出されるのが実態である。民主主義は、少数決民主主義となっている。 結果的に、政権は脆弱となり、ますます揺れる。 膨大な選挙民を党員に抱えた大衆政党の時代は終わった。 しかし、民主主義諸国は、それに変わる新たな政党政治のモデルを開発できないでいる。それが、「民主主義の赤字」を一層拡大しているようにも見える。 創造的革新が必要であろう。
ホーム
政策研究フォーラムとは
研究委員会
海外調査
研修会
出版物
リンク
お問い合わせ