森本防衛大臣へエール
加藤秀治郎
東洋大学法学部教授、政策研究フォーラム副理事長
六月四日、野田再改造内閣で森本敏氏が防衛大臣となった。
翌日付の毎日新聞によれば、先に五百旗頭真・前防大校長に打診し、断られた末の人事だったという。
それが事実とすれば、首相の人物眼に疑問が残るが、まずは結果的に良い選択になったと思う。
「結果オーライ」だが、森本新大臣に期待を込めてエールを送りたい。
問題は、就任後の慎重姿勢が目立って、「森本色」が出ないことの懸念の方であった。
拓大教授としての森本氏は、集団的自衛権の行使を不可とする現行政府解釈を非合理とする論者である。
だが、「就任後は自分の主張を封印し、慎重な発言に徹して」いた。
集団的自衛権については、「任期中に(行使不可の)考え方は変更しない」と語っていたのである(日経、六月九日付)。
憲法問題については、どの内閣でも新閣僚は、記者会見でこの種の「踏み絵」を踏ませられ、手足を縛られてきた。
「憲法順守」と「憲法の議論」は矛盾しないのだから、別の言い方があるではないか、と私は常々、不満に思ってきた。
例えば、「閣僚としては現行解釈に従うが、機会を見て問題提起をさせていただく」というような言い方がそれである。
だが今回は、そうでなくても課題山積の野田内閣だから、「まずは無難に」と、理解を示したい気持ちも半ばしていた。
ところが森本大臣、十三日の参院での委員会で重要な発言をした。
集団的自衛権の解釈変更に慎重姿勢を示した上でのことだが、こう語った。「
同盟関係を拡充する観点から、この問題をどう扱うのが正しいか、野田佳彦首相に率直に意見を申し上げようと考えている」。
立派な、勇気ある発言である。これこそが、あるべき姿である。
私はここで準備していたこの原稿の草稿を大幅に書き改めた。
現職閣僚の「憲法順守義務」と「自由な憲法論議」はまったく別物だからである。
五百旗頭氏には期待できないことで、「頑張れ! 森本大臣」と声援を送るものである。
その大臣が十四日、ある式典で起立する際によろめき、周囲の手に支えられたという。
立ちくらみとのことだが、健康に留意され、しぶとく閣内で問題提起を続けられることを期待したい。
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