特定秘密保護法案の陥穽
谷藤 悦史
早稲田大学政治経済学部教授、政策研究フォーラム理事長
十一月七日、特定秘密保護法案の審議が開始された。
安倍政権は、わが国の安全保障を確実なものにするために、国家安全保障会議の創設と抱き合わせで、今国会の成立を目指すという。
「決める政治」、「決断の政治」は大切であるが、国家安全保障会議の審議がそうであったように、拙速の感を拭い去れない。
法制定は、国民の行為に規制をかけることに他ならない。
それゆえ、規制がもたらす様々な可能性や効果を、丁寧に検証する作業が不可欠であろう。
今回の特定秘密保護法案は、「趣旨」、(1)行政機関における特定秘密の指定等、
(2)特定秘密の提供、(3)適正評価の実施を規定した「特定秘密の管理に関する措置」、次に「特定秘密の漏えい等に対する罰則」、最後に「その他」からなっている。
このほか、行政機関における特定の秘密として指定されるものとして「防衛」、「外交」、「外国の利益をはかる目的で行われる安全脅威活動の防止」、
「テロ活動防止」などの事項を示した別表がつけられている。
この法案の内容では、防衛、外交、外国の利益をはかる安全脅威活動の防止活動、
テロ活動防止活動に関わる事項は、原則公開されなくなる恐れがある。そしてまた、特定秘密の指定に関わる行政機関の長の裁量が拡大し、
情報統制が強化されるとともに、官僚統制が拡大する可能性がある。そもそも、何をもって秘匿を要するものとするかの基準も明確ではなく、
範囲が拡大的に解釈される恐れもある。
「その他」で、付け足しのように「国民の基本的人権を不当に侵害することがあってはならない」と述べているが、
どのような場合に「不当に侵害」とされるかも明記されない。
戦前の治安維持法がそうであったように、法案それ自体が短いために法解釈の余地が多く、結果的に恣意的な裁量幅が拡大する。
安倍政権は、強靭な社会の建設を目標にするという。
それは、国民一人ひとりの精神的・物質的な豊かさや安全が実現されてこそ達成される。
法案は、「国及び国民の安全の確保に資する」とうたうが、国それも時の政権や官僚の情報統制の強化につながるとしても、
国民の安心や安全の強化につながるかは不明である。安全保障に関わる情報の秘匿は必要であるが、この法案では情報の統制だけが強まってしまう。
抜本的な修正が望ましい。 |