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月刊誌「改革者」2016年5月号
「改革者」2016年5月号 目次
 

羅 針 盤5月号

            政府は、原子力政策に主体的役割を果たせ

               大岩 雄次郎 ● 東京国際大学教授、政策研究フォーラム常務理事


 経済産業省は、平成二十六年四月に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、 原子力を「エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置づけ、その方針に基づき、 平成二十七年七月に「長期エネルギー需給見通し」に於いて、二〇三〇年の電源構成として、原子力の割合を二二〜二〇%とすることを決定した。 しかし、震災から五年を経過した今もなお、原子力政策は混迷を極めている。 その原因の一つは「司法リスク」によるものである。 平成二十六年五月に福井地裁は、行政訴訟として大飯原発三、四号機の差し止め判決を出し、また同地裁は、 平成二十七年四月にも高浜原発三、四号機の運転差し止めの仮処分決定を出したが、同年十二月にその決定の取り消しの判断が同地裁の異議審査で決まった。 そして、今回また大津地裁は、平成二十八年三月に高浜原子力発電所三、四号機の運転差し止めの決定を下した。 原子力発電の安全性の判断基準を示さないままに、猫の目のように変わる「司法判断」が及ぼす社会的影響は計り知れないだけでなく、 司法自体の信頼性も揺るがしかねない。 もう一つのリスクは、原子力規制委員会の姿勢である。 原子力規制委員会設置法では、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的」として、 原子力委員会の設置を定めている。 しかし、原子力規制委員会の田中俊一委員長は「私たちは規制基準の適合性だけ審査する」と主張し、「再稼働の判断権限はない」とか、 科学的かつ確率的判断に立つべき原子力規制委員会の責任者として、「原子力に絶対安全はない」など徒に議論を混乱させる無責任な姿勢が、 原子力政策の一層の混乱を助長している。原子力を取巻くこうした無責任な状況を打破できるのは政府だけであり、政府の責務である。 しかしながら、その政府も、原発がほぼゼロの現状にもかかわらず、 上記のような電源構成を定めながら、「原発への依存度を可能な限り低減させる」という大衆迎合的な無責任な発言を繰り返している。 原子力規制委員会の本来の目的を実現するために、政府には「もんじゅ」を含めた原子力政策を使命感を持ち、主体的に進める覚悟が求められている。
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