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月刊誌「改革者」2016年9月号
「改革者」2016年9月号 目次
 

羅 針 盤9月号

             エビデンス(根拠)に基づく政策決定の推進を

               大岩 雄次郎 ● 東京国際大学教授、政策研究フォーラム常務理事


 安倍晋三首相は、二〇一四年十一月に続き、二〇一七年四月に予定されていた消費税率一〇%への引き上げを再度延期した。 それに伴う秋の経済対策は第二次安倍政権が発足して以降最大の事業規模で二八兆円に及ぶ。 安倍政権は、発足直後の二〇一三年一月に予算規模一〇・二兆円、事業規模二〇・二兆円、年末には予算規模五・五兆円、 事業規模一八・六兆円の経済対策を、二〇一四年十二月には予算規模三・一兆円、事業規模三・五兆円の経済対策をそれぞれ決定している。 問題は、二度の消費増税延期及び大型経済対策もその必要性や政策効果やその検証についての説明が極めて不十分な上に、合理的な説得力に欠けることである。 今回の消費増税延期の理由とされた「リーマン・ショック直前と似た状況」を巡って、専門家のみならず、多くの識者から疑義が出され、 政治的な揶揄までされたことは記憶に新しい。 これまでのご都合主義的な政策決定に経済学界から反旗が上がり(日本経済新聞二〇一六年八月十八日二面)、安倍政権と専門家との溝が深まっている。 日本の前近代的な政策形成には専門家の間で徒労感が広がっている。 一九九七年に誕生したブレア政権が一九九九年公表の白書「政府のモダニゼーション」で、政策形成における「客観的なエビデンス(根拠)」の重要性を主張し、 その後OECD、世界銀行をはじめとする国際機関がエビデンスに基づく政策形成を積極的に推進しており、 米国、英国などの先進諸国では具体的な取り組みが活発に行われている。 しかし、わが国では、「経済財政運営と改革の基本方針〜脱デフレ・経済再生〜(平成二十五年六月十四日閣議決定)(抄)」の第三章の 「四、実効性あるPDCAの実行」に「経済財政諮問会議において、経済再生、財政健全化に資する重要な対象分野について、 …(中略)…PDCAの徹底(総合的な観点からの評価を重視)、 エビデンスに基づく政策評価を確立する。(略)…」と謳われてはいるが、科学技術政策などの分野でやっと緒についた段階である。 長期的な視野に立った施策や行政を実現するためには、この国の現状を直視した客観的な事実や科学的なデータに基づく政策形成を推進する必要がある。
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