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月刊誌「改革者」2023年3月号
「改革者」2023年3月号 目次

防衛費論争の抜け落ちた論点

谷口洋志●中央大学経済学部教授、政策研究フォーラム副理事長

 防衛費の増額(GDPの一%から二%へ)とその財源、さらにこれらの非民主的決定が問題となっている。ところが、不思議なことに推進論者も批判論者も言及しない論点がある。  ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の防衛支出データ(名目米ドル表示)によると、日本の防衛費は、二〇〇〇年の四五五億ドルから二一年の五四一億ドルへと一・二倍になったのに対し、中国は一三・二倍、ロシアは七・一倍、インドは五・四倍、韓国は三・六倍、米国は二・五倍となった。その結果、日本の防衛費は〇〇年に世界第二位であったが、一〇年に第五位、二一年に第九位へと低下した。  二一年の防衛費が一〇〇億ドル以上の二五カ国・地域の中で、〇〇年から二一年までの日本の伸び率は最低である(第二四位は一・五倍の台湾)。したがって、毎年高い伸び率を示し、今では日本の五倍以上の防衛費を持つ中国が、日本の防衛予算増額に対して軍拡だと批判するのは笑止千万だ。日本が軍拡なら、中国とロシアの防衛費の伸びは、戦争準備・開始・遂行予算としか言いようがない。  各国の物価変動を考慮した実質米ドル表示では、二一年における日本の順位は第六位、伸び率では第二一位と若干上がる。しかし、中国、ロシア、インドや韓国の伸び率の半分以下だ。したがって、軍拡を批判するなら、日本よりもこれらの国に対して、より大きな声で批判すべきであろう。  日本の防衛費の伸び悩み要因は三つある。第一は、GDPの一%枠という長年の制約の影響である。第二は、円安・円高といった為替レートの影響である。円安になればドル表示額が減少し、円高になれば増加する。しかし最大の、第三の要因は、日本の通貨単位で測った名目と実質のGDPの伸び悩みだ。  二月十四日公表の最新データによると、〇〇年から二二年までの二十二年間に、名目GDPは四%、実質GDPは一三%増えた。つまり、GDPの一%枠という制約のもとでは、分母のGDPが全然増えないので、分子の防衛費もほとんど増えないのである。日本の病理の根源は、(アベノミクスのもとでも)全然増えなかったGDPにある。
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