活動報告

政研フォーラム「第10回海外調査概要報告」

 政策研究フォーラムが実施する2017年の第10回目の海外調査は、イギリスとフランスを対象にして、10月15日から21日までの7日間で行われた。 大量の難民の流入、イギリスにおけるEU離脱を求めた国民投票、フランスにおけるマクロン政権の誕生、 極右政党の台頭を典型としたポピュリズム政治の広がりと既存の政党制の揺れなど、ヨーロッパ各国の政治が大きく揺れ動いていることを踏まえて行われたのである。
 イギリスでは、ロンドンにおける在英国日本国大使館の概要報告に次いで、エセックス大学を訪問し、 P.ホワイトリー(P.Whitely)教授からイギリスのEU離脱の歴史的経済的背景、離脱に伴う政治・経済的影響について説明を頂いた。 その後、イギリスの政策研究所「オープンヨーロッパ」の主任研究員から今後の経済について報告を頂いた。
 フランスでは、イギリスと同様に在仏日本国大使館から、フランスの政治経済について丁寧な説明を頂いた。 その後、フランスでは、国際経済研究所のC.デステ氏からフランスの経済について、 研究シンクタンクであるSciencesPo政治研究センターのB.コートレ教授から、フランスの政治ならびに世論状況について報告を受けて意見を交換した。
 混乱する政治や経済の状況下で、ヨーロッパ各国で悲観と楽観が交錯し、明確な解が見出せないことを痛感することになった。 他方で、多くの知識人が、直面する課題に真摯に取り組んでいることを知ることにもなった。海外調査の大切さである。 問題の解を探し求めるのではなく、問題に対する多様な視点を発見することが重要なのである。問題に対して、多様な視点から多様な解を道きだして実践する。 日本の視点から、イギリスやフランスの視点から。そしてまた異なる国々の視点から。 視点の多様性を確認するために、多様な解を導き出すために、これからも政策研究フォーラムは、海外調査を継続し、多くの方々に考察の機会を提供いたします。
 今回の調査を行うに際して、多くの機関、団体ならびに個人の方々に協力を頂きました。とりわけ、 在英国日本国大使館と在仏日本国大使館の大使ならびに公使加えて書記官の皆様には、懇切丁寧な対応と説明を頂きました。 心から御礼申し上げます。短い期間の中で充実した調査にして頂いた参加団体並びに皆さまにも感謝申し上げます。ありがとうございました。

1.日程  2017年10月15日(日)~10月21日(土)
2.訪問国  イギリス(ロンドン)・フランス(パリ)
3.訪問先

1)イギリス(ロンドン)
 (1) 在英国日本国大使館ブリーフィング(10月16日(月) 16:30~17:30)

岡田 隆 特命全権公使
ブリーフィング風景
ブリーフィング風景
在英国日本国大使館玄関にて

*岡田特命全権公使より、イギリスの概要と最近の情勢、日英関係、英国の内政と経済状況、そしてブレクジットについて丁寧な説明をされた。 英国は安保理の常任理事国として国際社会において、未だ大きな影響力を有していることと併せ、世界屈指の金融機能を有している。 また、日英関係においても、メイ首相の訪日において重要な共同宣言・声明が発表された。 ブレクジットの離脱交渉では、EU側が交渉指針で三つの条件を提示し、メイ首相は前向きな姿勢を示しているものの、予断を許さないとの見解を述べた。

(2)エセックス大学ヒアリング(10月17日(火) 11:00~12:30)

P.ホワイトリー 氏
ヒアリング風景
ヒアリング風景
エセックス大学構内にて

*P.ホワイトリー教授から「何故英国は離脱を選択し、その後の影響はどうなっているのか」と題してプレゼンが行われた。 英国のEU加盟と2016年の離脱を問う国民投票が行われた歴史的経緯を長期的な要因、短期的要因に分けて解説された。 そして国民投票結果と投票状況についてデータを基に説明された。 その後、離脱後の影響とその方向性を、英国財務省が提起した三つのシナリオに基づき、それぞれの経済損失について述べられた。 そして政府が示した報告書の問題点を指摘され、「EU加盟で経済成長したから、離脱すると経済成長が止まる」との理論は必ずしも正しくないとの見解を述べた。

(3)  オープンヨーロッパヒアリング(10月17日(火) 16:00~17:30)

S.ブース 氏
ヒアリング風景
ヒアリング風景
ヒアリング風景

*冒頭、S.ブース氏より、オープンヨーロッパについての説明があり、事前に提示した質問内容に答える形で進められた。 メイ政権はブレクジットの初期段階まで続投する見込みが高く、難しい交渉を乗り越えるためには、メイ政権を維持した方が望ましいと述べた。 反面、保守党内でもブレクジットのスタンスについては意見が分かれているものの、現在の状況は妥協点としては受け入れられると述べた。 また、スコットランドについては離脱を問う国民投票を希望する声は非常に低く、英国からのスコットランド独立の可能性は低くなったと述べた。 その後、日英関係、経済政策、為替、若者への影響等について、幅広く活発な意見交換が行われた。

2)フランス(パリ)
 (1) 在フランス日本国大使館プリーフィング(10月18日(水) 16:10~17:10)

中村 和彦 公使
ブリーフィング風景
ブリーフィング風景
在仏日本国大使館玄関にて

*冒頭、中村公使から、フランスの政治情勢、そして極右の動向、マクロン大統領の欧州政策について説明された。 特に大統領選挙とその後の国民議会選挙の状況について説明され、マクロン勝利の要因は、既成政党による政治の打破を訴えたこと、 政権誕生後に過去の政権ができなかった政策を打ち出したこと、そして国際社会における存在感を示したことが大きいと述べた。 また、ル・ペンの国民戦線は国民議会選挙でも躍進できず、この先の見通しが立たない状況である。マクロン大統領の欧州政策は、 EU改革でフランスが中心的な役割を果たすことであると述べた。また、労働法改革について説明された後、活発な意見交換が行われた。

(2) CEPIIヒアリング(10月19日(木) 10:30~11:30)

C.デステ 氏
ヒアリング風景
ヒアリング風景
CEPII玄関にて

*冒頭、C.デステ氏から組織の説明があり、その後、事前に提示した質問に答える形で進められた。 欧州中央銀行(ECB)の低金利政策、量的緩和政策は評価するが、唯一の懸念は不動産バブルの可能性があると述べた。 ECBが緩和政策を終える時期は、2018年内には無いとの見解を示した。また、ユーロ圏はフランスとドイツとの論点が対立するため、 短期的にはユーロ圏改革の可能性には懸念を抱いているとも述べた。その後、英国のブレクジット、米国の経済政策等について、活発な意見交換が行われた。

(3) パリ政治学院政治研究センターヒアリング(10月19日(木) 13:45~14:30)

B.コートレ 氏
ヒアリング風景
ヒアリング風景
パリ政治研究センター玄関にて

*冒頭、B.コートレ氏から2017年に実施した2万5千人のアンケート調査に基づき、フランスの選挙について説明された。 マクロン勝利の要因は既存政党に対する不満や直近2名の大統領の10年間に選挙公約が果たせなかったことにあると述べた。 また、今回の大統領選挙は左右の対立に大きな転換点を迎えているが、左右の対立は根深く残っている。マクロン大統領は中道であり、 少し左派に寄ってはすこし右派に寄るというバランスを取るのが基本的アプローチである。経済は自由主義であり、新しいタイプの新自由主義者である。 一方で福祉政策等の社会民主的な政策は、まだ具現化してないが、そうした政策に取り組む必要もあると述べた。

4.調査団メンバー 13名(所属組織名、役職は実施時)

団長 谷藤 悦史 (政研フォーラム 理事長、早稲田大学政治経済学術院教授)
副団長 徳田 孝蔵 (政研フォーラム 専務理事)
事務長 重原  隆 (政研フォーラム 常務理事)
団員 高橋 義和 (UAゼンセン 政策・労働条件局・副部長)
団員 蒲原 天清 (UAゼンセン 新潟県支部・次長)
団員 牧野 恭英 (JP労組 北陸地方本部・執行委員長)
団員 鮫島 信泰 (JP労組 九州地方本部・執行委員長)
団員 末竹 亮 (電力総連 組織局・部長)
団員 永瀬 秀樹 (三菱自工労組 中央執行委員長)
団員 津川 信次 (IHI労連 呉支部・執行委員長)
団員 鈴木 正毅 (住重労連 東京地方本部・執行委員長))
団員 花井 賢 (味の素グループ労組 委員長代行)
団員 中川 勇樹 (UAゼンセン イトーヨーカドー労組・中央執行委員)

調査実施にあたり、外務省・現地日本国大使館など、多くの関係者の方々にご協力をいただきました。 関係者の皆様に改めまして感謝申し上げます。