活動報告

政研フォーラム「第11回海外調査概要報告」

 2018年の政策研究フォーラム主催の第11回目海外調査は、ドイツとチェコで10月14日から20日までの7日間実施されました。 2015年以降のシリア難民大量流入と、反発する右翼ポピュリズム政党の台頭で知られる両国で、様々な関係者から両国の昨今の実情をうかがうことができました。
 チェコでは首都プラハで在チェコ大使の公邸にて、嶋﨑大使や書記官の方々とお食事を共にしながら、チェコの最近の政治経済情勢についてレクチャーを受けました。 プラハ経済大学では政治学科のドヴォジャーコヴァー教授、さらに現地新聞社エコノミア社のエール氏から、 チェコの昨今の右翼ポピュリスト政権の特徴について様々な情報を頂戴しました。
 つづくドイツ・ベルリンでは、在独日本大使館で八木大使や職員の方々に、ドイツの政治、 とりわけシリア難民の問題をめぐる政権の対応とポピュリスト政党「ドイツのための選択肢」の躍進について説明をして頂きました。
折しもドイツでは州議会選挙でメルケル首相の与党の一角キリスト教社会同盟が敗北するなど、政権を揺るがす大きな出来事があった矢先であり、 アクチュアルな政治情勢をうかがう良い機会となりました。 ベルリンでは、さらにフリードリヒ・エーベルト財団とコンラート・アデナウアー財団というドイツを代表する公益財団の研究員の方々に、 難民問題の現状、政権の行く末、主要政党の状況などについて様々なお話をうかがうことができました。
 総勢15名の調査団のメンバーは皆、熱心に講義に耳を傾け、その後のディスカッションでも積極的に質問・討議をするなど、 短期間ながらもきわめて充実した調査となりました。来年以降もぜひこのような貴重な機会を継続していきたいと思っています。
 今回の調査を行うに際して、多くの機関、団体ならびに個人の方々に協力をしていただいだ。 とりわけ、在チェコ日本大使館と在独日本大使館の大使ならびに公使、書記官の皆様からは、懇切丁寧な対応と説明を頂戴し、心から御礼申し上げます。 短い期間の中で充実した調査にしていただいた機関並びに皆さまに、感謝いたします。ありがとうございました。

1.日程  2018年10月14日(日)~10月20日(土)
2.訪問国  チェコ(プラハ)・ドイツ(ベルリン)
3.訪問先

1)チェコ(プラハ)
 (1) 在チェコ日本国大使館ブリーフィング(10月15日(月) 16:30~17:30)

嶋﨑 郁 特命全権大使
ブリーフィング風景(大西書記官) 
ブリーフィング風景
在チェコ大使公邸玄関にて

*冒頭、嶋﨑特命全権大使よりチェコの概要と最近の情勢ならびに政治情勢について説明をされ、続いて大西書記官からチェコの経済状況、 寺村書記官から日本とチェコの関係ならびに労働政策についての説明がされた。チェコの経済成長率は4.6%であり、EU諸国の中では非常に好調である。 そのために経済政策が選挙の争点になっていないと述べた。昨年10月の下院選挙でバビシュ首相を首班とする連立政権が誕生するなど 、政治関係は流動的となっており、また、極右政党であるSPD(自由と直接民主主義)が下院選挙で22議席を獲得したと述べた。 次に、業種別労働人口は自動車を中心とする製造業が高いが、一人あたりのGDPはドイツの約半分となっている。 日系企業をはじめ各国がチェコに投資しているが、チェコ国内の産業の中でも、人手不足が問題になっていると指摘された。 日本との関係は良好であり、日系企業が250社、投資額はドイツに次いで日本が第2位となっている。チェコはヨーロッパの中心にあり物流の拠点、 そしてドイツに比べて賃金が安いメリットがある。そして、通貨はチェココルナを維持しているが、チェコ政府としてユーロ導入は全く考えていないのではと述べた。

(2)プラハ経済大学ヒアリング(10月16日(火) 10:00~11:45)

ドヴォジャーコヴァー教授
ヒアリング風景
ヒアリング風景
ヒアリング風景

*冒頭、ドヴォジャーコヴァー教授から私は経済学者ではなく政治学者であり、チェコスロバキア時代にドイツをモデルに大統領制ができたと述べた。 チェコ共和国は議員内閣制であること、そして今年の夏に歴史上初めてゼマン大統領は首相が提案する閣僚を拒否する事態がおき、 政治システム全体の秩序が不安定になっている。また、人権問題には関心がない反面、中国の投資については関心が高く、 新しい原子力発電所建設において政治とビジネスの癒着が危惧されると見解を示した。当選当初のゼマン大統領はEU寄りの姿勢を見せていたが、 実態は反アラブ・反イスラムでありイスラエルに近いと言え、政治姿勢はその時々の状況に応じて都合の良い形に変化させる「ご都合主義」であると厳しく指摘した。 また、権力と世界政治に影響を及ぼしたいという野心を抱いており、そのことは、自分自身をチェコの「ドナルド・トランプ」であると言うことからも伺えると述べた。

(3) ホスポダーシュケ-・ノヴェニ社ヒアリング(10月16日(火) 14:30~15:50)

M.エール 氏
ホンジック 氏
ヒアリング風景
ヒアリング風景

*冒頭、エール氏より当社は紙面で1紙、無料のインターネット新聞、週刊誌を2~3誌を発行している新聞社であると説明された。 ゼマン大統領周辺のアドバイザーたちは、自分たちのビジネスに関する事項を強調し、それを大統領が活用しているとともに、 当初のEU寄りから徐々にヨーロッパの典型的なポピュリズムの姿勢を示し、EUを批判の対象にしており、現在、親ロシア派の政治家であると見解を述べた。 また、チェコには2箇所の原子力発電所があるが、ゼマン大統領の一番の関心ごとは新設する原子力発電所をロシアの力によって完成させることであると述べた。 さらに、下院選挙で躍進した日系人のトミオ・オカムラ氏が率いる政党(自由と直接民主主義の党)の主張は移民のみならず外国人の排除を主張しているが、 今後、党勢が伸びる可能性があると見解を示した。加えてANO2011と社会民主党の連立政権について解説され、その後、活発な意見交換が行なわれた。

2)ドイツ(ベルリン)
 (1) 在ドイツ日本国大使館プリーフィング(10月17日(水) 16:00~17:30)

松田 賢一 公使(左)
ブリーフィング風景
ブリーフィング風景
在独日本国大使館玄関にて

*松田公使から配布資料を基に、ドイツの概要、ドイツの内政、経済、貿易、外交、難民・移民問題、国防、日独関係、人と文化の交流について詳細な説明をされた。 (*詳細は報告書を参照)  ドイツの内政については、メルケルの所属するキリスト教民主同盟と社会民主党(SPD)が連立を組んでいるが、 初めて議席を獲得したAfD(ドイツのための選択肢)と言う独立右派政党が第3党に躍進したことに注目が集まっていると述べた。 また、近年は中国によるドイツの中小企業の買収が増えており、優秀な技術の流出が懸念されている。難民・移民問題は政権内でも大きな話題であり、 トルコ経由の難民をトルコに留め置く代わりにトルコに支援する合意以降、トルコ経由の中東系難民が著しく減少したと述べた。 ドイツは2022年までに原発全廃を決めているが、問題は石炭・褐炭利用であり、特に褐炭は経済的に遅れている旧東ドイツのドレスデン周辺で採掘していることから、 褐炭削減について懸念されている。また、ドイツでは自動車産業で働く人は労働者の7人に1人を占めるが、過去の成功体験が強すぎて、 電気自動車の開発・普及が遅れていると指摘した。

(2) フリードリッヒ・エーベルト財団ヒアリング(10月18日(木) 10:30~12:00)

M.シューベルト 氏(中)
ヒアリング風景
ヒアリング風景
エーベルト財団玄関にて

*冒頭、シューベルト氏より先週のバイエルン州選挙の結果を見ると、社会民主主義にとってはかなり困難な時期を迎えていると述べた。 ドイツには16の連邦州があるが、その中でもバイエルン州はドイツにとって影響力のある大きな州であり、伝統的に保守政党が強いと言えるが、 今回の選挙結果はドイツの社会民主主義においては歴史的敗北と言えると述べた。また、来年は3つの東部ドイツ(旧東独)地域の州議会選挙も予定されており、 SPDの敗北が見込まれるが、メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟も同じく敗北を喫していると言うべきであり、 今後、緑の党、かたやAfD(ドイツのための選択肢)がコミュニティーになると、ドイツの政治地図において両極端が強まり、中道が空洞になることだと見解を述べた。 私たち社会民主党にとって最大の問題はメルケル首相であり、何故ならば発言していることは社会民主党の政策に近いと思うからであると述べた。 その後、活発な意見交換を行なった。

(3) コンラート・アデナウアー財団ヒアリング(10月18日(木) 14:30~16:00)

F.プリース 氏
ヒアリング風景
ヒアリング風景
アデナウアー財団玄関口にて

*冒頭、プリース氏から当財団はキリスト教民主同盟に近い団体であることが説明された。現メルケル首相は13年目に入りました。 最長はコール首相の16年ですが、両者の政権期間を振り返ると、政権最後の時期は後継者についての論議があった。 また、期間が長いと国民にも飽きが生じるとともに、新しい政策課題に対応できていないとの懸念の声もあると述べた。 加えて、ドイツにおいてポピュリズムが台頭しているが、世界中でグローバル化やテクノロジー化を含む様々な変化に抵抗する人々がいるのも事実であり、 現在の状況は社会の両極化が進行している状況と示唆した。ドイツでは対米パートナーシップの心配があり、日独はハイテク産業を中心とする工業国であるとともに、 自由貿易体制を支持する価値観は共通であることから重要なパートナーであると述べた。 その後、高齢化対策や年金問題、女性活躍、移民問題、そして労働時間等の労働法制について活発な意見交換を行なった。

4.調査団メンバー 15名(所属組織名、役職は実施時)

団長 河崎 健 (政研フォーラム 常務理事、上智大学外国語学部教授)
副団長 徳田 孝蔵  (政研フォーラム 専務理事)
副団長 郡司 典好 (日産労連 会長)
事務長 重原 隆 (政研フォーラム 常務理事)
団員 内堀 良雄 (UAゼンセン 前副書記長)
団員 浅野 浩二 (JP労組 中国地方本部・執行委員長)
団員 知花 優 (JP労組 沖縄地方本部・執行委員長)
団員 坂根 元彦 (JP労組 中央執行委員)
団員 宗近 文仁 (電力総連 産業政策局・部長)
団員 中村 鉄平 (JR連合 交通政策部長)
団員 大串 一紀 (三菱自動車工業労組 中央執行委員)
団員 緑川 英俊 (IHI労連 組織対策部長)
団員 中村 一樹 (住重労連 千葉地方本部・執行委員長)
事務長補佐 前 田 修 平 (味の素労組 事務局長)
団員 鈴木 辰夫 (UAゼンセン イトーヨーカドー労組・中央執行副委員長)

調査実施にあたり、外務省・現地日本国大使館など、多くの関係者の方々にご協力をいただきました。 関係者の皆様に改めまして感謝申し上げます。