政研フォーラム「第12回海外調査概要報告」
2019年の政策研究フォーラム主催の第12回目海外調査は、フランスとハンガリーを対象とし、10月21日から27日までの7日間にわたって実施されました。 ドイツやイタリアを中心にEU経済が停滞する中で比較的順調に推移しながらも重要な国内的課題を抱えるフランスとハンガリーにおいて、 様々な関係者から両国の動向に関するより正確な情報を得ることができました。
フランスでは、首都パリの在フランス大使館にて、北川公使、堀内公使や木本一等書記官から、フランスの最近の政治、経済、社会情勢について、 詳細なレクチャーを受けました。その後、パリ市内のレストランにおいて、 駐フランス日本国特命全権大使の木寺昌人大使を囲んで食事をしながらさらに詳細状況についてお話をうかがいました。 パリ政治学院政治研究センター(SciencesPo)のフーコー教授およびCEPII(未来学・国際情報センター)世界経済研究所のC.デステウィス副所長からは、 フランスの政治、経済、社会、国際関係についての詳細な説明をしていただきました。
ハンガリーでは、首都ブタペストの在ハンガリー大使館にて、飯田一等書記官や國兼二等書記官から、ハンガリーの最近の政治、 経済、社会情勢について詳細なレクチャーを受けました。 その後、在ハンガリー日本国大使公邸において、特命全権大使の佐藤 地大使を囲んで食事をしながらさらに詳細なハンガリー情報を教えていただきました。 外務貿易研究所では、ウグローシュディ所長、バサ・チーフアドバイザー、ゴレチスキー・シニアアナリスト氏より、 われわれの質問に対して非常に詳細かつ明確に回答・解説していただきました。 フォガッチャ西ハンガリー大学准教授からは、独自の視点からハンガリーの政治・経済・社会情勢の読み方についてレクチャーを受けました。
総勢12名の調査団のメンバーは皆、熱心に講義や解説に耳を傾け、その後のディスカッションでも積極的に質問・討議をするなど、 短期間ながらもきわめて充実した調査となりました。今回は特に、フランスの黄色いベスト運動をどのように理解するか、 国内問題に対してマクロン政権が何を行ってきたかについて、 ハンガリーのオルバーン首相が実際にはどのような発言をしてどのような政策を推進してきたかについて、 かなり正確かつ詳細な情報を得ることができたと思います。来年以降もぜひこのような貴重な機会を継続していきたいと考えております。
今回の調査を行うに際して、多くの機関、団体ならびに個人の方々に協力をしていただいだ。とりわけ、 在フランス日本国大使館と在ハンガリー日本国大使館の大使ならびに公使、書記官の皆様からは、懇切丁寧な対応と説明を頂戴し、心から御礼申し上げます。 短い期間の中で充実した調査にしていただいた機関並びに皆さまに感謝申し上げます。ありがとうございました。
1.日程 2019年10月21日(月)~10月27日(日)
2.訪問国 フランス(パリ)・ハンガリー(ブダペスト)
3.訪問先
1)フランス(パリ)
(1) 在フランス日本国大使館ブリーフィング(10月23日(水) 9:30~10:30)




*北川克郎公使より日仏関係は良いところにきている。首脳間の往来も頻繁で活発で、今後もそういう関係は続くと述べた。 マクロン政権は2017年に発足し5年間の任期中で、政策は改革を断行するという強い意志でドラスティックにスタートしたことから、 国民の中に取り残された感が生まれ、黄色のベスト運動につながった。また、環境大国を自負しているので様々なエコロジー、 グリーン化に取り組んでいて、都市は自動車が走りづらい街になっている。フランスの政界再編では、この国は長らく右と左、 保守と革新、右の共和党と左の社会党という2大政党で政治が続けられてきて、大統領もどちらからか選出されてきが、 マクロン大統領は保守、革新という構図を打ち壊し新たな流れをつくった。それが共和国前進という新しい政党である。 特徴は右左関係なく有能な人材を引き抜いて、中枢に入れていき中核を担っている。 フィリップ首相は共和党の人で、ルドリアン外相は社会党の人だと述べた。その後意見交換が行なわれた。
(2)パリ政治学院政治研究センターヒアリング(10月23日(水) 11:00~12:00)




*フーコー所長より、政治学院は近々150年を迎える。また、この政治学院はフランスにおける経済界や政治家のエリート養成校で、 出身者は経済界や政界のリーダーとなっている。例として歴代7人の大統領のうち5人がこの学院の出身であると述べた。 2019年の政治情勢では、過去にない状況が起こっており、2017年にマクロン大統領が選ばれて二大政党制(保守政党と社会党)の構図が崩れ、 政党の重みや比重がガラリと変わった。2017年5月の欧州議会選挙では新たな2つの政党(共和国前進と極右政党の国民連合)が台頭し、 6月に行われた国民議会選挙でも新興与党の共和国前進が単独過半数を確保した。 2018年11月から始まった蛍光色の安全ベストを着た市民が軽油・ガソリン燃料費値上げや燃料税の引き上げに対する抗議活動(黄色のベスト運動)が起こった。 黄色のベスト運動が起こった原因は、フランスは伝統的にエリート社会で特権階級があり、それに対する抗議でもあったが、 しかし5月の欧州議会選挙を見てもそのことを代弁する政党、議員がいないため結果的には議会は何も変わらなかった。 この抗議運動は世界の各地で起こる可能性はあると述べた。
(3) CEPII(国際経済予測研究センター)ヒアリング(10月23日(水) 15:00~16:15)




*デステ次長より、CEPIIと言う独立の研究機関であり、規模は小さく35名の研究員で運営し、 研究テーマは、グローバリズムに関連した現象について研究をしている。具体的には、貿易問題、国際的な財政フロー、 マクロ経済、移民問題などであり、ここにいる研究者は純粋にアカデミックな領域での研究をしており、他の大半の研究員は、 専門的に特化した分野について専門誌に論文を発表するなどの仕事をしている。CEPIIはEUの人たちの世論について指標を出しているが、 それによると最新の指標ではないが、逆説的に見るとフランスは一見EUに反対しているように見えるが、最近はEUの政策については大事にしている。 問題は、世論を見るとEUがどのように機能しているかが理解されておらず、EUの出来た経過も非常に複雑であり、そのため、 国家の主権がどこまでEUに移譲されているかの程度も、テーマごとに違うと述べた。
2)ハンガリー(ブダペスト)
(1) 在ハンガリー日本国大使館プリーフィング(10月24日(木) 17:30~18:30)

國兼 洋平二等書記官(右)



*飯田友紀一等書記官より、ハンガリーの概要について、人口は東京都23区とほぼ同じ(約980万人)で、 面積は日本の約4分の1、GDPはEUの中では低いが、成長率はEUの中では高く(+4.9%)今後も伸びる予想である。 議会は一院制(議員数199名、任期4年)で在留邦人は1,691人、進出企業は162社である。 ハンガリーの政治や気質を理解するためには歴史を理解することが重要との事で、このようにどこかの国に支配され、 虐げられてきたことにより、ハンガリー人は、アイデンティティーを強く意識し、常に主権を求めてきた。 オルバン政権もそういう背景があるので、ハンガリーのための政治を意識して行っている。 言葉も周りとは違いアイデンティティーを意識した国民性といえると述べた。
国兼洋平二等書記官からは、経済政策の特徴は、政府主導による雇用創出として製造業を重視し、日本企業もハンガリーに進出している。 2018年の失業率は3.7%でほぼ完全雇用であり人手不足で、2019年直近では3.4%、EU平均は6.8%である。 賃金上昇率は2018年11.3%、最低賃金も引き上げ(8%上昇)2017年からは2年連続10%以上上昇している。 平均賃金は2018年、33万フォリント(日本円12万)である。しかし好調な経 済と裏腹に西側より低い賃金で労働力も西側に流出している為、人手不足が生じていると述べた。その後意見交換が行なわれた。
(2) ハンガリー外務貿易研究所ヒアリング(10月25日(金) 10:00~11:30)




*ウグローシュディ所長より、まず、難民と移民問題について。これは全く別物と考えている。 移民は正規の手続きを経ての労働者は歓迎して受け入れている。当然、不法者は拒否している。 ハンガリーはグローバリーゼーションの恩恵を受けており、Eコマースに参加している。 EPAは歓迎しているとのことで、トルコの難民キャンプへの資金サポートもしている。 国際条約の中での難民は生命の安全を確保するための第一国は尊重するが、第一国を通過して第二国へという難民は拒否している。 貿易については、輸出は過去5年間、記録的に伸びている。80%の輸出はEU向けであり、一番の輸出相手はドイツである。 1/3はドイツとの輸出入と投資によるもので、EUとドイツに依存した経済であることから、更なる自由貿易の拡大を目指している。 そして、イーストゲートオープン、サウザンゲートオープンという政策を取っている。 東洋は日本を重要な相手国として視野に入れており、中国とロシアとの関係も重要と考えていると述べた。
(3) フォガッチャ西ハンガリー大学准教授ヒアリング(10月25日(金) 14:30~16:00)




*フォガッチャ准教授より、民主主義というものが初めてやってくるのが1989年以降であり、 資本主義と言っても色々なモデルがある。どの資本主義にするのか決断をしなければならず、 欧米タイプの資本主義なのか西ヨーロッパで発生したドイツやスカンジナビア系統の資本主義なのか、 東洋の方に目を向けては、発展している日本・台湾・韓国・シンガポールあるいは中国というモデルもあった。 資本主義のモデルはこればかりではなく世界にはもっといろんな種類があり、ハンガリーはどれを選んだかというと、 どれも選ばなかった。今の経済学の本を開くとハンガリーの資本主義の定義のところにこんなことが書いてある。 「外資を基にした流動資本によって活性化された競争的国家」がハンガリー的な資本主義となっている。 要するに外資の投資があり、さらには競争しあうところが基本である。 一方で、外資に依存していると、外国の投資家がいないと成立しないということになり、 誰に依存しているかというと一番依存しているのはドイツの企業であり、ハンガリーのパートナーである。 また2010年にハンガリーは政治的に大きな変化があった。 それは何かというと右翼政治に対して左翼政治が非常に小さくなってしまい、2010年から現在まで、 ほとんどの選挙の大部分は右翼が勝っている。右翼のトップは首相のオルバーン・ビクトル氏である。 オルバーン首相が言ったのは、「資本主義の中くらいしか発展しないモデルとハンガリーは手を切る」であると述べた。 その後、活発な意見交換が行なわれた。
4.調査団メンバー 12名(所属組織名、役職は実施時)
団長 谷口 洋志 (政策研究フォーラム常務理事、中央大学 副学長
副団長 内堀 良雄 (政策研究フォーラム専務理事)
事務長 重原 隆 (政策研究フォーラム常務理事)
副事務長 中村 哲也 (日産労連前副会長、政策研究フォーラム常務理事)
団員 平田 将人 (UAゼンセン 常任中央執行委員)
団員 伊藤 載人 (UAゼンセン 東京都支部次長)
団員 林郷 俊也 (JP労組 中央副執行委員長)
団員 西藤 勝 (JP労組 関東地方本部執行委員長)
団員 伊豆 望 (電力総連 組織局局長)
団員 鈴木 直 (IHI労連 富岡支部執行委員長)
団員 大西 寿明 (住重労連 関西地方本部執行委員長)
団員 小林 弘之 (味の素労組 中央執行委員)
調査実施にあたり、外務省・現地日本国大使館など、多くの関係者の方々にご協力をいただきました。関係者の皆様に改めまして感謝申し上げます。