活動報告

政研フォーラム「第13回海外調査概要報告」

 2023年の政策研究フォーラム主催の第13回目海外調査は、スウェーデンとフィンランドを対象とし、10月22日から28日までの7日間にわたって実施されました。
 スウェーデンとフィンランドに注目したのは、少子高齢化や総人口減少、カーボン・ニュートラル、デジタル化、ウクライナ戦争終結など、世界や日本が直面する重要課題に対して、これら2か国が早期から取り組み、大きな成果を達成してきたからです。
 スウェーデンは、かつては日本と変わらぬ高齢化率であったにもかかわらず、高齢化の進展が日本よりも緩慢です。カーボン・ニュートラルの推進では、これら2か国は、水力を中心に再生可能エネルギーの比重が極めて高く、それと同時に原子力依存度もかなり高いという特徴を持っています。政府活動のデジタル化(電子政府)や産業・国民のデジタル競争力では、これら2か国は世界の上位に位置する「デジタル先進国」です。
 社会保障、とりわけ高齢者福祉の分野でも注目される存在です。フィンランドでは、介護士の社会的地位が高く、安定かつ高収入を実現していますし、スウェーデンでは、コミューン(基礎自治体)が在宅介護を中心とする高齢者福祉を支えています。さらに、これらの2か国では、高福祉・高負担を前提として、手厚い育児休暇制度を持つなど、子育て対策でも先進的です。女性の社会進出が目立ち、多様性と包摂性の実践でも注目されます。
 さらに、スウェーデンとフィンランドは、1995年以来EUに加盟(フィンランドはユーロにも参加)していますが、NATO(北大西洋条約機構)に加盟していませんでした。しかし、ウクライナ戦争の勃発以降、急遽、NATO加盟申請に向けて動き、フィンランドは2023年4月4日に31番目のNATO加盟国となりました(スウェーデンはまだ加盟が承認されていません)。
 このように、スウェーデンとフィンランドは、少子高齢化・総人口減少、カーボン・ニュートラル、デジタル化、高齢者福祉、安全保障などの分野において注目すべき取り組みを行ってきた代表的な先進国であり、高福祉・高負担や高生産性を実現している高所得経済の典型であり、日本が目標とすべき要素を多数兼ね備えた課題解決先進国です。
 第13回海外調査では、多数の重要課題のうち、安全保障、エネルギー・環境、介護・高齢者福祉を中心に、それぞれの現状と実態の把握、政府や自治体の取り組み、労働組合の役割などについての情報収集と意見交換を行いました。
 今回の調査を行うに際しては、多くの機関、団体ならびに個人の方々に協力をしていただいだ。とりわけ、在スウェーデン日本国大使館と在フィンランド日本国大使館の大使ならびに、書記官の皆様からは、懇切丁寧な対応と説明を頂戴し、心から御礼申し上げます。短い期間の中で充実した調査の実現にご協力、ご尽力いただきました皆さま、とりわけ外務省西欧課、川合孝典参議院議員、UAゼンセン国際局の皆さまに厚く御礼申し上げます。

1.日程 2023年10月22日(日)~10月28日(土)
2.訪問国 スウェーデン(ストックホルム)・フィンランド(ヘルシンキ)
3.訪問先

1)スウェーデン(ストックホルム)
 (1) 在スウェーデン日本国大使館ブリーフィング(10月23日(月)18:00~20:00)

能化 正樹 特命全権大使
ブリーフィング風景
ブリーフィング風景
在スウェーデン日本国大使公邸にて能化正樹大使を囲んで

*能化大使よりスウェーデンと日本はロシアを挟んで東西にあり8,000Km離れている。スウェーデン王朝が始まり今年が500年になる。平和と繁栄を守るためには中立である必要があったが、ロシアによるウクライナ侵攻を機にNATO加盟申請するという外交政策を200年ぶりに転換した。日本の1.2倍の面積に10分の1以下の人たちが住んでいる。人権・ジェンダー・開発援助は世界の中でも先進国で、女性国会議員は46.1%、管理職は40.2%と日本と比べても目立っています。政治では社会民主党が強く、一昨年9月までは社会民主党政権で女性が首相でしたが、10月に中道右派政権のスウェーデン民主党に交代している。日本との関係は非常に良好であり、政治・安全保障関係の対話と協力を深めている。自由民主主義人権法の下に、基本的価値がすべての外交安全保障と合致していると述べた。その後意見交換が行なわれた。

(2) IFメタルヒアリング:環境・エネルギー(10月24日(火) 9:00~10:45)

ハンネス・ボルグ 氏
ヒアリング風景
エリカ・バーグルンド・アース 氏 ヒアリング風景
ヒアリング風景

*ハンネス・ボルグ広報マネージャーが所属するエナジーフォレタゲンという団体は、スウェーデンのエネルギー関連の企業400社を組織してつくられた団体で、発電、配電、販売、貯蔵する企業が集まっている。エネルギーに関する様々な分析を行ったり、教育を行ったり、エネルギー関連の社会論議に貢献を果たしている。スウェーデンのエネルギーは98%が非化石燃料で、大部分を占めているのは水力発電(41%)、原子力(29%)。最近は風力発電(20%)も増えている。廃棄物を燃焼させる(バイオマス)が9%になっている。
 エリカ・バーグルンド・アース産業・金属労働組合調査官からは、気候変動目標を達成するためにエネルギー源の転換が大きな課題であることは間違いない。2045年までに二酸化炭素排出量をゼロにするというのが一番大きな目標である。この環境目標の達成は様々な難しい課題を全産業に突き付けているが、同時に様々な産業・分野が競争力を身につけるための可能性でもある。ただ、大企業に関してはそれほどの心配は無いが、大企業の下請けなどの中小企業に対しては何らかのサポートも必要になってくると述べた。

(3)IFメタルヒアリング:自動車産業(10月24日(火) 10:45~11:30)

アレクサンダー・ズサ 氏(右)ハイジ・ランピネン 氏(左)
ヒアリング風景
ヒアリング風景
IFメタルオフィス玄関前にて

*企業再編等での組合員サポートとしての能力開発制度の一例として、テクニカルカレッジが全国展開で100校ほどあり、使用者と労働組合が協力してつくった仕組みである。能力開発に実際に取り組むのは使用者だが、労働組合が協力して仕組みを作っている。法律の枠内だが国の支援もできている。
スウェーデンを含めヨーロッパでは2045年をカーボンニュートラル実現の目標にしている。それに対しては2つの目標があり、1つ目はEV車を間に合わせる必要である。スウェーデンはEV車を製作していないため厳しい課題になっている。2つ目は日本の課題と同じくインフラ整備で、現状、充電器が設置されてきてはいるが政府の支援が十分ではない。スウェーデンにはボルボカー(乗用車)、ボルボ(大型車)、スカニア(トラック)の3大企業があるが、ボルボカーは2030年までにすべてEV車にすると公言しており、そのための投資も始まっている。特にバッテリー技術に関してはヨーロッパよりアジアのほうが進んでいるので、日本や韓国から能力を呼び込もうと頑張っていると述べた。

 (4) IFメタルヒアリング:福祉(10月24日(火) 14:00~15:00)

ウルリカ・ロレンツィ 氏
マリ・フッポネン 氏
ヒアリング風景
ヒアリング風景

*ウルリカ・ロレンツィ氏から、スウェーデンの福祉モデルについて労働組合の観点から、すべての国民が基本的な福祉サービスを受ける権利を持っている。教育、医療、セキュリティネットワークなど収入や社会的ステータスに関わらず、すべての人が利用できる。このシステムを支えているのは社会保険料などがあるが、基本的には税金で、このシステムを支えている1番のポイントは労働者人口が多いことにあると述べた。
 マリ・フッポネン氏からは、スウェーデンの高齢者福祉はサービスを受ける高齢者だけではなく、高齢者の家族にとっても重要となっている。スウェーデンの女性の就業率は70~80%とEUの中でも最高の水準を保っている。それを可能にしたのが児童福祉と高齢者福祉の分野を職業としてプロに任せるという制度が出来上がったことにある。高齢者福祉に使用される税金が圧迫するなどの理由から財源が削られると高齢者福祉の介護の分野で働く女性スタッフが、自身の親族の介護を無料ですることになり、労働市場への参加が下がり税収も減少することから全体のシステムにとって良くないことになると述べた。

(5) アレクサンドラ・フォルカー議員とのヒアリング:安全保障(10月24日 (火)15:45~16:30)

アレクサンドラ・フォルカー議員
ヒアリング風景
ヒアリング風景
スウェーデン国会議事堂内にて

*フォルカー議員は、社会民主党の所属。25歳で国会議員になり現在3期目、現在外交委員会に籍を置いている。2014年に国会へ来たときは、国防費をかなり削減した時期であったが、ちょうどロシアがクリミア半島に侵攻した時期でもあった。2014年以降、削減を続けてきた国防費も再び増強する方向に動き始め、兵役義務も再び導入することとなり、NATOをはじめ、諸外国の軍隊との協力関係を増強していった。当時はNATOにフィンランドとスウェーデンが一緒に入るということは現実的ではなかったが、2022年の春にロシアがウクライナに軍事進攻を始めたことで状況が変わり、長いこと抱いていた一つの疑問、つまりロシアはどこまでやるつもりなのかということに対し、嫌というほどはっきりした答えを見ることになった。あの出来事をきっかけとして、「NATOに加盟しよう」「加盟しなければ」という声がスウェーデン国内でも大きくなり、私たち社会民主党は反対を続けていたが、ロシアの侵攻を機に加盟しようという声がどんどん大きくなっていったと述べた。

2)フィンランド(ヘルシンキ)
 (1) FIIA(フィンランド国際問題研究所)ヒアリング(10月26日(木) 9:30~10:30)

パステルナーク 氏(左)リンナマイキ 氏(右)
マクナマラ 氏
ヒアリング風景
FIIA内にて

*パステルナーク氏からフィンランド人の世論は、20年位前にはNATO加盟に「反対・興味がない」が60~70%近かった。2014年以降から世論に変化が出てきて、パートナーシップみたいな感じでNATOと提携してという世論が出てきた。NATO加盟に対してのロシアの反応をよく聞かれますが、かなり強い反発が想定されましたが、思ったほどではなく、ある意味驚きでした。防衛費のGDP2%ですが、現在2%以上の予算を既に組んでいます。
 フィンランドは昔から徴兵制を取ってきたが、対象となる脅威は1国です。歴史的に脅威があったので、世論的に意見が統一されており、なぜ2%に上げるのか説明はいらなかった。国会議員に「GDP2%をどう思いますか」というアンケートを取った結果、政党に関係なく90%が必要だという答えを得ました。
 リンナマイキ氏からは、フィンランドとスウェーデンが加盟ということで、北欧における安全保障のバランスが変わってくる。両国とも軍事力は比較的強いほうに入り、加盟するということはNATOの中の組織の変化が出てくると思われる。NATOはアメリカが中央司令部になるので、北欧の全てがNATO加盟になり、エリア開発とか組織をどう動かすかとか、色々問題が出てくるかと思うと述べた。

(2) 在フィンランド日本国大使館ブリーフィング(10月26日(木) 11:30~13:30)

藤村 和広 特命全権大使
ブリーフィング風景
ブリーフィング風景
在フィンランド日本国大使公邸にて藤村和広大使を囲んで

*藤村和広大使より、デジタル化とカーボンニュートラルについて、この国の経済は大きく2つの柱があり、キーワードとして一つ目はDX、二つ目はGX。DXについては官・民・学が一体となり、先進的なデジタル化を展開している。店で買い物をする際、現金で支払う経験はほとんどなく、クレジットカードかスマホのアプリで支払います。医療も含めて様々な行政サービスがデジタル化されており、最近はパスポートのデジタル化も試験的に始まったところです。カーボンニュートラル、GXについては先進的で、2035年までにカーボンニュートラルを実現するために頑張っています。まず、石炭火力発電所を減らし2029年までに廃止する計画です。最近は水素などに力を入れている。フィンランド経済はDX,GXに特徴づけられています。また、スタートアップ、若者の起業に政府が力強く応援しています。女性活躍はすぐに実感されると思いますが、ジェンダーギャップ指数は世界3位です。国会は200人中92人が女性で、閣僚19人中12人が女性です。経済界でも取締役の3割が女性で、これでも足りないと4割を目指すと言われていると述べた。その後意見交換が行なわれた。

(3) フィンランド社会民主党ヒアリング(10月26日(木) 14:00~15:00)

テロ・シェメイッカ秘書
ヒアリング風景
ヒアリング風景
社会民主党本部内にて

*テロ・シェメイッカ氏より、1995年より秘書を担っており、それ以前は大臣秘書官を務めたこともある。
フィンランドは生活水準が高い国の一つですが、色々と課題が残っており、国会、政府、大統領が3本柱となっている。大統領は6年任期で、連続2期まで務めることができ、現在の大統領は2期目なので、来年は新しい大統領が選出されます。また、国会は4年に1回選挙が行われます。今年の総選挙は4月初旬に行われ社会民主党は2.22%の支持率を伸ばし3議席増を果たすも3番目の政党になっている。フィンランドでは、最大議席を獲得した政党が内閣を組むことになっており、今回の総選挙では1番目は保守党(国民連合党)、2番目はフィン人党、3番目が社会民主党でした。微妙な差で政党の位置が変わります。3,000~4,000票で、第2党、第3党が入れ替わります。そのため、数千票の差で連立政権に入るか入らないかが決まると述べた。

4.調査団メンバー 14名(所属組織名、役職は実施時)

団長 谷口 洋志 (政策研究フォーラム理事長、中央大学名誉教授)
副団長 中島  徹 (政策研究フォーラム専務理事)
副団長 川崎 一泰 (政策研究フォーラム常務理事、中央大学教授)
事務長 中村 哲也 (政策研究フォーラム常務理事)
団員 香西  真 (UAゼンセン 広島県支部 支部長)
団員 宮島 佳子 (UAゼンセン 政策サポートセンター副部長)
団員 﨑本 安徳 (JP労組 九州地方本部 執行委員長)
団員 村川  望 (JP労組 中央執行委員)
団員 古川 千博  (電力総連 政治渉外局 次長)
団員 梶川 高則 (日産労連 副会長)
団員 宮野 勇馬 (JR連合 企画局長、国際局長)
団員 藤川 裕之  (三菱自工労組 中央執行委員長)
団員 三島 久美 (基金労組 中央執行委員長)
団員 宇野 典孝  (UAゼンセン イトーヨーカドー労働組合 中央執行副委員長)


調査実施にあたり、外務省・現地日本国大使館など、多くの関係者の方々にご協力をいただきました。関係者の皆様に改めまして感謝申し上げます。